この発見により、医療施設や公共交通機関など人が集まる場所でも常時、人体に許容される濃度でオゾン発生器(低濃度かつ適切な濃度管理が維持できる機器)による新型コロナウイルス感染防護のための使用が可能となります。藤田医科大学病院では既に導入済みのオゾン発生器を使用して、病院内の待合所や病室などでの感染リスクを低減させる取り組みを、9月初旬より開始いたします。
研究の背景
オゾンガスは多くの病原体を不活化する効果があることが知られており、新型コロナウイルスにも効果があることがすでに報告されています。しかし、既報の実験は、1.0〜6.0ppmという高濃度のオゾンガスを使用しており、人体への毒性が懸念されていました。
今回、本学の村田教授研究グループは、人体に許容される低濃度(0.05と0.1ppmで実験)でもオゾンガスが新型コロナウイルスに対して除染効果があるということを明らかにしました。感染拡大の抑制・予防に向けての基礎的なエビデンスになると考えます。
実験方法と材料
新型コロナウイルスのウイルス液をステンレスの担体に付着、乾燥させ、アクリル製の気密容器に納めます。気密容器内には、オゾンガス発生装置、オゾンガス濃度測定装置、温度計、湿度計を入れており、システムによって0.05または0.1ppmで予め定めた時間までウイルスが付着した担体をオゾンガス処理します。オゾンの暴露量は、濃度(ppm)と時間(分)の積算であるCT値を基準としています。
処理が終了したら、ステンレスに付着したウイルスを培養液で縣濁、回収します。さらに回収したウイルス懸濁液を適宜希釈してVeroE6/TMPRSS2細胞に感染させ、tissue culture infectious dose
50(TCID50)という指標を算出します。TCID50は感染性ウイルス量の指標です。同じ条件で2つあるいは3つの独立した試行を行い、平均値をとりました。。
VeroE6/TMPRSS2細胞は、Japanese Collection of Research Bioresources Cell Bank(JCRB)より入手しました。ウイルスは神奈川県衛生研究所より正式な手続きを経て譲渡を受けた新型コロナウイルスを、VeroE6/TMPRSS2細胞で増幅し、実験に使用しました。
全ての実験は、藤田医科大学内に設置されたバイオセーフティーレベル3(BSL3)の実験施設において、適切な封じ込め措置をとりながら行いました。実験後は、全ての器具、試薬を高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)により完全に滅菌しています。
実験結果
右グラフは、湿度80%・55%の環境におけるそれぞれのTCID50の平均値を示したものです。
湿度80%では、日本の作業環境基準であるオゾンガス0.1ppm処理でもCT60(10時間後)で4.6%までウイルスの感染性が低減しました。より厳しいアメリカ食品医薬品局の基準であるオゾンガス0.05ppm処理で5.7%までウイルスの感染性が減少しました。
湿度が55%では、オゾンガスによる除染効果が減弱しましたが、オゾンガス0.1ppm処理では、CT24(4時間後)で53%まで感染性が半減しています。
※日本産業衛生学会は、作業環境基準としてのオゾン許容濃度を0.1ppm(労働者が1日8時間、週40時間浴びた場合の平均曝露濃度)と勧告しています。
考察
人体に無害とされる濃度のオゾンガスであっても、新型コロナウイルスの感染性を抑制する効果があることが、実験によって証明されました。特に湿度の高い条件では効果が高いことも明らかになりました。本研究は、特に湿度の高い部屋において、人がいる環境であっても継続的に低濃度オゾンガスを処理することで、新型コロナウイルスの伝播を低減できる可能性があることを示唆する世界初の基礎研究となりました。